第4話『眠る因子』

 

「次のニュースです。アメリカ・ロサンゼルス郊外のショッピングセンターで昨夜、地元警察がマフィアのメンバーと銃撃戦になり二人を射殺、残る一人も胸を撃たれましたが、倒れた直後にレギウスとなって暴れ出し、警官を死亡させて逃走するという事件がありました」

 

「何だよそれ……」

 

 安土城でマンティスレギウスが暴れる事件があった翌日の朝。海外から飛び込んできた衝撃的なニュースに、唖然としながら荷物をバッグに詰め込んで登校の準備をする俊一であった。

 

「ドイツで行われたある研究によれば、レギウスへの変異を引き起こす因子は一部の人間の体内に生まれつき眠っていて、死の危険を感じると人体の防衛本能としてその因子が目覚めて人間をより生命力の高いレギウスに進化させようとするらしいということなんですね。現時点ではまだ仮説であって断定はできませんが、今回のロサンゼルスの事件も、銃で撃たれて生命の危機に陥ったことがこの男性をレギウスに変える引き金になったというのは考えられますね」

 

 スタジオに招かれていた専門家はそのように解説した。昨日の磯崎官房長官の説明にもあった通り、レギウスになる可能性を秘めた人間は日本だけでなく世界中にいると考えられるが、今回のマフィアの男は警官の銃撃を受けて重傷を負った際にレギウスに覚醒したと見られることから、レギウス化を引き起こす要因を探る格好の研究材料になるというのだ。

 

「お兄ちゃん、コンソメスープできたよ!」

 

「おお、上手になったな。美味しそうだ」

 

 台所に立っていた中学二年生の妹・獅場楓花が、覚えたばかりの汁物料理をカップに注いでダイニングテーブルに持ってくる。俊一はテレビの前を離れて食卓についた。

 

「じゃ、いただきます」

 

「いただきま~す!」

 

 俊一が作ったスクランブルエッグとシーザーサラダも皿に盛りつけ、兄妹二人で仲良く一緒に朝食を食べる。安土市の郊外にある春ヶ台ニュータウンの広い一戸建て住宅で暮らしている俊一と楓花だが、両親は仕事で忙しく世界中を飛び回っているため、こうして子供だけで過ごす日も多い。

 

「ねえお兄ちゃん。昨日見たレギウスってどんなだったの?」

 

「う~ん、まあいきなり現れた時はビックリしたし、怖かったな。手が大きな鎌みたいになってて、かなりの切れ味だったみたいだし。でも昨日のは悪い奴だったけど、見かけはそんなにグロテスクでもなくて、鎧を着てるみたいでちょっと格好いい感じもしたんだけどな」

 

 俊一と楓花の間には、実は血の繋がりはない。楓花は獅場修二郎&曜子夫妻の実の娘だが、俊一は十年前に山で倒れていたところを二人に保護され、そのまま養子として今日まで育てられてきた拾い子なのである。そのため、俊一の本当の親が誰なのかは不明であった。

 

「でも遺伝的なものだとしたら、俺たちにもレギウスになれる力はあるかも知れないのかな。俺と楓花じゃ血の繋がりはないから、どっちか片方にはあってもう片方にはないって可能性もあるけど」

 

「私には、多分ないと思うな。ほら、小さい頃に崖から落ちて大ケガしたことがあったけど、それでレギウスになったりはしなかったし」

 

「そうか。確かにレギウスになれる体質なら、あの時に覚醒しててもおかしくなかったわけだよな。あれは本当に危なかったもんなぁ……」

 

 楓花は幼い頃、崖から転落して命に関わる大ケガをしてしまったことがあったが、警官に撃たれたマフィアの男のようにレギウスになって復活したりはせず、病院に搬送されて医師たちの懸命の治療で何とか助かったのである。父の修二郎も子供の頃に大きな交通事故を経験しているそうだが覚醒しておらず、どうやら獅場家にはレギウスの血は流れていないようなのだが、養子である俊一がどうであるかは分からない。

 

「俺も一回死にかけてみれば、レギウスになれるかどうか分かるのかな……」

 

「やめてよねお兄ちゃん。それでもしレギウスになれなかったら、そのまま死んで人生終了じゃない」

 

「分かってるよ。冗談だって」

 

 無論、そんな命懸けの実験をやってみる気は俊一にはなかった。だが間もなく、彼は否応無しに自分の体を試す機会に巡り合ってしまうのである。


前回へ

次回へ

戻る