第3話『明かされた機密』

 

「お疲れ様。磯崎君。難しい役目を押しつける形になってしまって本当に済まなかったな」

 

 記者会見を終えて戻った磯崎官房長官を出迎えてねぎらう、小柄で人懐っこそうな愛嬌のある、それでいて知性と落ち着いた気品も同時に感じさせるどこか不思議な顔つきをした壮年の男性――彼こそは日本の政権与党である自由憲政党(自憲党)の党首にして、内閣総理大臣を務める羽柴藤晴であった。

 

「いえいえ総理、滅相もございません。あまりに急なことでしたので、どこまで話して良いものか回答に苦慮する質問もありましたが、ひとまずのマスコミ対応としては大体あんなものでしょうか」

 

「レギウスの問題については、近日中に私も改めて会見を開いて自分の口から国民にしっかりと説明するつもりだ。いずれにせよ政府が今まで情報統制を敷いていたのは事実で、どう話そうが国民の批判も野党の追及も避けられないだろうがな」

 

 レギウスの存在をこれまで公表せず、ずっと水面下で対応を進めてきた日本政府だったが、今回このような不測の大事件が起こって多くの人がレギウスを目撃することになってしまったため、もはや隠すのは不可能と判断し急遽こうして情報公開に踏み切ったのである。とは言え、政府もレギウスについては決して現時点で多くを知っているわけではなく、研究も対策もまだまだこれからというのが実情だった。

 

「不幸中の幸いは、あのレギウスになった犯人が安土を犯行現場に選んだことだ。人の多い場所ならどこでもいいと軽い考えで安土城で暴れることにしたようだが、もしもっと遠くの街で事件を起こされていたら『彼』も間に合わず、多くの人命が失われていたところだった」

 

「まあ、アレはアレでグレーゾーンと申しますか、相当問題のあるやり方ではあろうかと思いますが……現状、我々が取れる実効性のあるレギウス対策の選択肢は他にないのが現実ですからな」

 

 マンティスレギウスは同種の超戦士であるウルフレギウスに犯行を妨害され、倒されてしまったために目的だった大量殺人が果たせずに終わった。だが日本全国どこでも今回のように『彼』がすぐさま飛んで行けるわけではない。もし同様の事件が安土以外の場所でも発生した場合、果たしてどう対処するかというのは答えを急がねばならない喫緊の課題だった。

 

「私としては、いずれレギウスの覚醒者の中から適格な人物を選抜して編成した政府直属のレギウス部隊を作るのが一番かと思っている。だがそのためにはメンバーの人選や大前提として国民の理解と支持を得ることなど、越えなければならない高くて分厚い壁がいくつもある」

 

 苗字から分かるようにあの豊臣秀吉の子孫だという噂もある羽柴だが、先祖の偉大さを自身の人気取りに利用するのは卑怯であり、国民が自分に対して正しい評価を下しにくくなってしまうという理由でその真偽については敢えて明言を避けている。長く政権を担ってきた歴史の中で様々な利権と結びつき、腐敗も少なからず進んでいた自憲党を改革し、真の国民主権を実現させるクリーンで民主的な政党として立て直そうと努めてきた羽柴にとって、ここ数年の間に降って湧いたレギウスの問題はその行く手に立ちはだかる大きな壁であった。

 

「既にそのための下準備はある程度まで進めております。しかしこうなった以上、計画の進行を更に早めなければなりませんな」

 

 日本の平和、そして国民の生命を守るのは政治家たる者の使命である。そのために待ち受ける数々の困難な政治課題を全力で乗り越えていく覚悟を、羽柴総理は既にがっちりと胸に固めていた。