ここは日本の関東地方内陸部のどこかにある暗闇に包まれた空洞空間。
そこにある奇怪な一団が姿を現していた。
まるでカラクリ人形のような無表情且つ無機質な、剣と盾で武装した数体の生命体。
そしてそれらを率いているのは、不気味な赤い両目、尖った牙が無数にある裂けた口、鋭く長い爪と四本指の両手をした悪魔のような外見の一体の怪物であった。
実は彼らこそ、次元の裂け目を超えて地球にやって来た、魔王ヴェズヴァーンの使徒である使い魔インプと、その配下のホムンクルス兵士たちである。
「まったく、魔王さまが眠っていらっしゃる間にレギウスどもめ、
まるで好き放題に動き回りおって…!
奴らは自分たちの使命が分かっているのか!?」
インプにとって、本来魔王のために働く忠実な召使であるべきレギウスが、
魔王の意思とは関係なく己の勝手気ままに世間で暴れまわっている現状が気に食わないのだ。
「完全に後手に回った。すでに魔王さまのための神聖なる地である"アヅチ"は、
ゼルバベルとかいう連中によって事実上抑えられてしまった。
何としても魔王さまに忠誠を誓う新たなレギウスの頭数を揃え、
ゼルバベルの行く先に我らが先んじなければならぬ。そして思い知らせてやる。
お前たちレギウスが、魔王さまの目的を成就するための道具に過ぎないとな!」
インプが無言のまま目線で合図すると、ホムンクルス兵士たちはそれぞれバラバラに各地へと散った。
東京、海防大学のカフェテリア。
昼休みに軽く昼食を取っていた外国語学部英文科1年・牧村光平の向かいの席に、
彼のガールフレンドでランチを運んで来た医学部1年・沢渡優香が無言のままいきなりさりげなく座った。
「…ゆ、優香!?」(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
「何ビクついてんのよ? もうこの前の事なら怒ってないったら」・・・・(¬_¬ )
「そ、そうなのか?…ゴメン、つい。ハハハ……」(;´▽`A``
光平は食事の間、優香から相談を持ち掛けられた。
最近、優香の従弟である小学生の晴真が元気がないらしい。
心配した優香が事情を聴いても、強情な晴真は何も言おうとしないのだそうだ。
そこで困った彼女が、光平からも聞き出してくれないか?と頼んで来たのだ。
晴真のことなら光平も前々からよく知っている。
一人っ子だった光平は、晴真を実の弟のように可愛がっていた。
晴真の方も、従姉のボーイフレンドである光平のことを兄のように懐いていた。
すぐに光平は二つ返事で快諾した。
まだ夕方の日の暮れる前、光平と優香は、晴真を近所の公園に呼び出した。
「何だよ優香ねえちゃん、光平兄ちゃんまで連れてきてさ。
僕なら何でもないって言ってるだろ!?」
不貞腐れたように晴真は言う。
柏村晴真、梓季町小学校に通う小学6年生の男の子である。
沢渡優香とは母方の従姉弟の関係に当たる。
「晴真、お前、女の子に振られただろ?」
「ど、どうしてそれを!?」
光平にズバリ当てられ、晴真は動揺した。
「お前の考えてることぐらい、手に取るようにわかるさ」
「チェッ、光平兄ちゃんには敵わないなぁ~」
その後、光平の言葉巧みな尋問に、晴真は洗いざらい白状させられた。
学校で晴真は、かねてから好意を抱いていた女の子・桜庭和奏にゴムで出来た玩具の蛇や蜘蛛でイタズラを仕掛け、すっかり彼女から嫌われてしまったらしい。
「それは晴真が悪いわよ!」
「あの程度のイタズラであそこまで怒ることなんてないじゃないか…」
「でも本当は和奏ちゃんに謝りたいと思っているんだろ?」
「う、うん…」
優香の真っ向からの糾弾には開き直るかのような態度の晴真だったが、
本心ではすごく後悔していることを見抜いた光平はそこを巧みに突き、晴真に反省を促す。
「和奏ちゃんに謝りに行こう。もし人で行くのが嫌なら俺も付き合ってやるよ」
「本当!?光平兄ちゃん!?」
「ああ、約束だ!」
翌日、光平と優香は晴真に付き添い、桜庭邸に赴くことになった。
「広いお屋敷ねぇ…」
桜庭邸へとやって来た牧村光平、沢渡優香、柏村晴真の3人。玄関の立派な門構えに息を呑む。
和奏の祖父は、将来のノーベル賞候補ともいわれた海防大学名誉教授の桜庭善二郎博士である。
一介の学生に過ぎない光平や優香からすれば、まさに雲の上の人だ。
玄関のインターホンを鳴らすと、お手伝いさんらしき女性の声で、
和奏は今日、軽い風邪をひいて寝込んでいるので日を改めてほしいと伝えてきた。
「やっぱり和奏、まだ怒ってるのかなぁ…」
晴真は和奏が仮病を使って自分を追い返そうとしているのだと思い、がっくりと落ち込む。
光平も「仕方ない、今日の所は出直そう」と言って帰ろうとしたその時、
桜庭邸の玄関前に一台の大きな配送業者のトラックが停まった。
トラックから降りた数人のスタッフたちが次々と大きな荷物を邸の中に運び込んでいく。
「こんにちわ~! ひまわり運送です! お品をお届けに上がりました~!」
「あれっ、あの人は…?」
光平は、おやっ?と思った。配送業者のスタッフたちの中に、見覚えのある人間がいたのだ。
「進藤さんじゃないですか?」
「――ゲッ!? お前は牧村光平!?」
「光平くん、その人知り合いなの?」
「ああ、安土で会ったブレイバーフォースの人だよ」
「バ、バカッ…声が大きい!」
「やあ、奇遇だなぁ~。いったいどうしたんですか、その格好は?
もしかして転職でもしたんですか?」
そこへ同じくひまわり運送の制服を着たブレイバーフォース隊長・斐川もやって来た。
「どうした?何の騒ぎだ? おや、確か君はこの間の……」
「どうも、ご無沙汰してます」
桜庭邸を訪れた来訪者の中に、数日前安土で事情聴取したばかりの大学生・牧村光平の姿を見つけた斐川。だがその斐川の姿を目にした優香も、何かを思い出したように思わず「あっ!」と声を上げる。
「あの、もしかして斐川さんですか!?」
「…ん? あっ!? 優香ちゃん! 優香ちゃんじゃないか!?」
「懐かしい。やっぱり斐川さんだったんですね?」
「優香、その人知り合いなのか?」
「うん、紹介するね。昔、警視庁でお父さんの部下だった斐川喜紀さん」
話によると斐川喜紀は、沢渡優香の今は亡き父・圭介の警察時代の部下だったらしい。
「とすると、君が優香ちゃんのボーイフレンドの光平君だったのか。
彼女のお母さんの奈津子先生からもいろいろと話は聞いてるよ。
そっかあ…牧村光平、事情聴取の時からどっかで聞いた名前だと思ってはいたが、
そういうことだったのかぁ。
海防大学の学生だと聞いた時点でどうして気が付かなかったのかなぁ~」
「もう…斐川さんったらぁ…」(///)
「ど、どうも…恐縮です」(汗。
話に花を咲かせている斐川、光平、優香を余所に、
傍で黙って一部始終を見ていた晴真と進藤は呆れたように見つめている。
「優香姉ちゃん、光平兄ちゃん、いったいここまで何しに来たんだよ?
僕を置いてけぼりにしないでよ」
「ちょっと隊長!」
「あ、ああ…そうだったな。すまんすまん」
「おい牧村光平、今から説明してやるからこっちに来い!
そこの女の子とボーズ、アンタたちもだ!」
「…えっ。ちょっと何するんですか! 放してください!」
進藤は光平の右腕を強引につかんで、ぐいぐいと桜庭邸の中へと引き込んだ。
それを見ていた優香と晴真も訳も分からぬまま斐川と進藤に促されたので、黙ってそれについて行く。
そこで3人は衝撃の事実を知らされたのであった。
「ゆ、誘拐!?」
桜庭和奏は昨日、学校からの下校中に何者かの手で誘拐されたらしい。
そして桜庭邸には脅迫電話がかかってきたため、ブレイバーフォースがこうして犯人側に悟られないよう配送業者に変装して出動してきたということらしい。
「でもなんで警察ではなく、わざわざブレイバーフォースが…?」
「誘拐の瞬間を道端で目撃していた人間がいてな。」
「証言によると犯人はレギウスらしい」
斐川と進藤の話では、ランドセルを背負って自宅への帰路を歩いていた和奏は、怪物のような手で捕まれ1BOXカーに無理やり乗せられ連れらられた瞬間を、たまたま目撃した通行人がいたようなのだ。
進藤は光平たちに誘拐の件を厳重に口止めすると、「今日はもう帰っていい」と言って解放した。
「光平兄ちゃん、和奏は大丈夫だよね!? 無事に助かるよね!?」
「ああ大丈夫だ! 必ずブレイバーフォースが助け出してくれるさ。
だから今は下手に騒いだりせずに、和奏ちゃんの無事を祈ってような」
和奏の身を案じる晴真を、安心させるように諭しながら励ます光平であった。
その日のうちに光平は、錦織佳代を介して松平宗瑞の鎌倉の屋敷にまで呼び出された。
そこで宗瑞に同席していたのは、なんと誘拐事件の当事者の一人である桜庭博士その人だった。
誘拐された和奏の祖父だ。
話によると、数年前、桜庭博士の研究チームは太陽光を利用した夢の無公害エネルギーである「スーパーソーラーX」を開発することに成功したのだが、その理論を軍事転用すると大陸一つを吹き飛ばしかねない危険な兵器にも応用できることが分かった。まだこの研究を世に出すには今の人類には時期尚早と判断した博士は、この研究データを封印して闇へと葬ったのだという。
「つまりそのデータの存在をどこかから嗅ぎつけた奴が、今回の事件を起こした…」
事実、桜庭家に掛かって来た脅迫電話の内容は、
身代金ではなく件のデータの引き渡しの要求であった。
「ゼルバベルを名乗る反体制組織が暗躍する昨今、
もしこのデータが悪の手に渡れば由々しき事態となる」
「君の正体については松平先生からお聞きした。頼む! どうか孫娘を救ってほしい!」
「分かりました。お孫さんは僕が必ず救い出してご覧に入れます」
光平は、桜庭博士に和奏の無事救出を約束した。