翌週の日曜日、牧村光平は今度は沢渡優香と錦織佳代を連れて、柏村晴真と一緒に先週と同じ緑地公園の森を昆虫採集に訪れていたのだが、
「ねえ佳代、見つかった?」
「ぜ~んぜんダメ。もう、アタシがセミになりたいくらいよ」
相変わらず虫一匹見つかる気配はない。
一方その頃、光平たちのいる場所から離れた同じ公園内の林の中にある洞窟の入り口にいたのは、まだ東京にいた稲垣健斗だ。
「じいちゃんから預かった護符の反応がこっちに近づくほど強くなってる。魔王の手下の魔物たちのアジトは、察するにこの中か?」
健斗が手にしている木製の護符に描かれた紋様が激しく光っている。
どうやらこの護符は、魔物の存在を感知するセンサーのような役割を果たしているようだ。
「やべっ!誰か来る!?」
人が近づいてくる気配を察した健斗は、素早く大木の上にジャンプして身を隠す。
そしてしばらくして姿を現したのは、虫捕り網を片手に持った晴真だった。
「随分と森の奥まで入り込んじゃったけど、大丈夫かなぁ~。あれっ、あんなところに洞窟があるぞ!?」
興味本位で洞窟の入口へと近づいてしまう晴真。それが運の尽きだった。
人間の匂いを嗅ぎつけたゾンビたちが沸いて出て、晴真はたちまち洞窟の奥へと引きずり込まれてしまった!
「人間ノ匂イガスルト思ッタラ、案ノ定カ…」
「小僧、コッチヘ来イ…」
「ば、化け物!? な、何するんだよ~!!」
ゾンビに捕まった晴真の姿が洞窟の闇へと消えた後、一部始終を見た上で大木の上から地上に着地する健斗。
「やれやれ、しょうがないなぁ~」
「助けてー!!」
「晴真!?」
助けを呼ぶ晴真の叫び声を感知した光平。
牧村光平=天凰輝シグフェルのマルチイヤーは、数キロメートル先の1デシベルの音を聞き分けることすらできるのだ!
「光平くん、どうしたの?」
「晴真が危ない!!」
「なんですって!?」
「二人ともここを頼む。俺は晴真を助けに行く!」
「ちょ、ちょって待って光平!」
「小僧、どうしてくれよう?」
「た、助けて! 僕をどうするつもり?」
「可哀そうだが、ここを嗅ぎつけられた以上活かして帰すわけにはいかんぞ」
魔王ヴェズヴァーン配下の魔物たちに囚われて大ピンチの晴真。
晴真を始末しようとするインプの鋭い爪が迫る!
そんな時、どこからか煙幕が投げ込まれて辺り一面に煙が充満した!
「な、何事だ!?」
突然のことに混乱する魔物たちを尻目に、洞窟内に忍び込んでいた健斗は晴真に近づき、彼を拘束していた縄の戒めを忍刀で切った。
「へへん、どんなもんだい! その煙には魔物の視覚だけでなく嗅覚まで弱らせる甲賀伝来の薬草が仕込んであるんだ!」
「き、君は誰!?」
「お兄ちゃん、牧村光平さんの知り合いだろ?」
「えっ!? 光平兄ちゃんを知ってるの?」
「いいから逃げるよ! ついて来な!!」
健斗と晴真は一目散に逃げだしたが、あともう少しで洞窟の出口というところで、ゾンビたちに追いつかれてしまう。
「待テ!」
「逃ガサヌゾ!!」
わらわらと追いかけて来るゾンビの群れに取り囲まれる健斗と晴真。
「チッ、もう追いついてきたのかよ!!」
「ツマラヌ小細工ヲシオッテ! モウ許サヌゾ!」
だが間一髪というところで、光平が駆けつけて来た!
「晴真、無事か!?」
「光平兄ちゃん!!」
「ここは俺が引き受ける! 健斗君、晴真を頼む!」
「分かった! 任せといて!!」
光平がゾンビたちを引き付けている間に、健斗と晴真は脱出に成功した。
「世の平和を乱し、か弱い子供にまで手を出す魔王ヴェズヴァーン配下の魔物! 許さん! 翔着(シグ・トランス)!!」
牧村光平は眩いオーラの光に包まれると天凰輝シグフェルへと変身した。
「天が煌(きら)めき、凰が羽撃(はばた)く。輝く我が身が悪を断罪せよと駆り立てられる!
天凰輝シグフェル、戦神(マーズ)の剣(つるぎ)とともに見参!」
愛剣マルスエンシスを振るい、迫りくるゾンビの群れをバッタバッタと薙ぎ倒して行くシグフェル。
しかしゾンビの群れは途切れることなく洞窟の中から湧いて出る。しかし一度に大量の敵を倒すような光線技の類は、人のいる街中では使えない。
「これじゃあキリがない。よしっ!」
洞窟奥に、ゾンビたちを現世に呼び出している何かがあると推理したシグフェルは、ゾンビの波を押しのけて洞窟奥へと強引に突入。案の定、そこにはゾンビたちを召喚している魔法陣があった。
「これか!」
魔法陣を発見したシグフェルは、間髪入れずに必殺技の構えを取る。
「天を斬り裂き、烈火を纏(まと)う我が剣(つるぎ)!歯向かう悪を一刀両断、滅殺殲滅!受けよ断罪の炎! 斬天紅蓮の太刀(たち)! チェストォォッッ!!!!!!」
赤い猛火の斬撃が魔法陣を真っ二つに切り裂いた。
魔法陣が効力を失うと同時に、召喚されたゾンビたちも現世でその姿形を留めることが出来ず、次々と雪崩のように崩れ落ち消滅していったのであった。
こうして魔王ヴェズヴァーン配下の魔物ゾンビの軍団による東京侵攻の企ては、未然に防がれたのである。
「天凰輝シグフェルとやら!」
「ん…?」
一息つく間もなく、声の下方向へと振り向いたシグフェルのその視線の先には、一体の悪魔ともエイリアンともつかぬ姿をした奇怪な生物だ立っていた。
ゾンビを召喚していた今回の事件の黒幕でもあるインプだ。
「この地球にお前のような者がいたとはな」
「お前か、この魔法陣を作り出して、ゾンビの化け物を大量に召喚していたのは?」
「その通りよ! 我は偉大なる魔王ヴェズヴァーン様にお仕えするインプ! 今日はほんの挨拶代わりだ。いずれ貴様も魔王様の前に跪く日が――うげっっ!?」
「――!!」
突然、インプの背後に現れた巨大な何かが大きな手でインプの頭部を掴み上げ、その強靭な握力で握りつぶした仕舞った。
「ウギャアアアッッ!!!!!!」
断末魔の悲鳴を上げて死んでしまうインプ。その亡骸も巨大な足で執拗に踏みにじられている。
その光景は見る者によってはグロテスクであり、吐き気を催すには十分だ。
やがて姿を現したその巨大な影の正体は、肉食恐竜ティラノサウルスにも似た巨躯を誇るレギウスだった。
「天凰輝シグフェル、魔王ヴェズヴァーンの手先を代わって片付けてくれたことに礼を言うぞ!」
「何者だ!?」
「俺の名はティラノレギウス! 魔人銃士団ゼルバベルの東日本方面攻略を任された司令官だ!」
「何だと!?」
「また相見える時もあるだろう。その時を楽しみに待っているぞ!」
それだけ言い残してティラノレギウスは去って行った。
新たなる強敵の出現に、この先に待ち受ける怒涛の展開を予感するシグフェル=光平であった。
今回も事件は無事に解決した。
そして初の出張任務を無難にこなし、安土に帰還した健斗はというと…?
「健斗よ、この度の働き、まことに見事であった。しかし忍びとしての任務のために何日か学校を休むのはやむを得ないが、儂は勉強をしなくていいとまで言った覚えはないぞ」
「学校を休んでいた間、遅れていた分の勉強はしっかり取り戻さなくちゃね!」
祖父の岳玄からは猛勉強を命じられ、姉の千秋が宿題のドリルや問題集の山を健斗の机の上にこれ見よがしに積み上げる。表情が引きつって固まってしまう健斗。
「そんなのないよ~!!」。・゚・(ノД`)・゚・。ウエエェェン
というオチでしたとさ。チャンチャン♪