日曜日、ここは東京都心にある、都民の憩いの場でもある緑地公園。
世間では解散総選挙の話題で一色に染まる中、海防大学に通う大学生である牧村光平、寺林柊成、葉桐涼介の3人は、知り合いの少年である柏村晴真に付き添って昆虫採集へと来ていた。
「おーっ、セミだ!それっ!!」
「わっ!? バカ! どこ狙ってんだよ!!」
どうやら昆虫採集は苦戦しているようである(笑)。
そんな光平たちの様子を見て、晴真は呆れた表情を見せる。
「ダメじゃないか光平兄ちゃん、虫捕りの名人じゃなかったの?」
「ごめんごめん」
「朝から探して、ようやく見つけた虫なのに」
「今度こそ必ず捕まえるからさ、な!」
晴真に平身低頭になって謝る光平。
この場所には昆虫はほとんどいないと見て、別の場所へと移動する。
「それにしても、最近じゃ昆虫も少なくなったよな」
「兄ちゃんたち、もういいよ」
「えっ、そうか…?」
晴真は諦めたように、その場の芝生に座り込んでしまう。
「都会の汚れた空気の中じゃ、きっと虫たちも住めないんだ」
「晴真…」
「あーあ、お父さんの仕事さえ忙しくなかったらなぁ~」
晴真の父は次の連休の日に晴真を田舎に連れて行ってあげると約束していたらしいのだが、急に仕事が忙しくなってしまったらしく、親子水入らずの田舎旅行はお預けとなっていた。自然豊かな田舎に行けるのを楽しみにしていた晴真の落胆ぶりは想像に難くない。
「田舎に行けば虫だってたくさん取れるのになぁ…」
溜息をつく晴真を、光平たちはただ黙って見ているしかできなかった。
そこへたまたま近くを通りかかった街宣車から、スピーカーから流れる大音量の演説が聞こえて来る。
「有権者の皆様、ご声援ありがとうございます! 私は格差社会や貧困の問題に取り組んでまいります! 是非とも投票先には〇〇党の〇田〇郎をよろしくお願い申し上げます!!」
騒がしい選挙演説が耳に入った柊成と涼介は、一気に興を冷めたとばかりに白けた表情を見せる。
「やれやれ、あんなやかましい騒音が響いたら、そりゃ虫だってみんな逃げちまうぜ」
「どうする牧村?」
「そうだな。今日はもう解散にしようか」
翌日の月曜日、海防大学竹芝キャンパスのカフェテリア。
「へぇ~じゃあ、結局昨日は戦果無しだったの?」
「うん。だから次の日曜日は二人にも手伝って欲しいんだ」
沢渡優香と錦織佳代に昨日の話をした光平は、二人にも晴真の昆虫採集を手伝ってほしいと頼み込んでいた。
???「へぇ~、面白そうだね。俺も手伝ってやろうか?」
突然、窓の方向から少年の声がした。
「誰ッ!?」
「…君は?」
光平たち3人が声のした方向へと一斉に振り返ると、窓枠に腰を下ろした10歳くらいの少年がこちらを見ていた。
「あ、アンタは稲垣健斗!?」
「久しぶりだね、伊賀のお姉ちゃん」
稲垣千秋の弟で甲賀の少年忍者の稲垣健斗。安土城占拠事件の時以来の再会である。
「どうしてアンタがこんなところにいるのよ!?」
「じいちゃんからの言いつけでね。最近東京で魔王ヴェズヴァーン配下の魔物たちの動きが活発化している兆候があるから、様子を探りに来たのさ」
「今日は平日でしょ! 学校はどうしたの!?」
「そんなの、忍術でどうにでも誤魔化せるさ。へへん♪」( ̄ー ̄)ニヤリ
「佳代、その男の子知り合い?」
「うん。安土で知り合った子でさ。甲賀の頭領の孫の稲垣健斗」
優香に健斗のことをとりあえず紹介する佳代。すると健斗は窓枠からひょこっと飛び降りて、光平に近づき彼をまじまじと見つめている。それに対して光平は戸惑った表情をする。
「へぇ~兄ちゃんが天凰輝シグフェル?」
「あ、ああ…そうだけど。俺の顔に何かついてるのかな…?」
「いや、ただ想像していたイメージと違って随分とナヨナヨした男の人だなぁと思ってさ」
「コイツ、言うに事欠いて何て言い草なの!?」
「よせよ佳代ちゃん、相手は子供だぞ」
健斗に起こる佳代に、大人の態度で宥める光平。
しかし一方の健斗は全く退く様子はない。
「こんな感じじゃ、シグフェルなんかよりライオンレギウスの方がずっと強いね」
今の健斗の口から出たライオンレギウスという言葉に、光平はすかさず反応する。
「健斗君と言ったっけ。君はライオンレギウスを知ってるのかい?」
「勿論知ってるよ。せっかくだからお近づきのしるしに教えてあげようか? ライオンレギウスの正体は、俺の姉ちゃんの彼氏なんだよ。名前は獅場俊一って言うんだ」
「獅場…俊一……」
光平は無意識にその名を口ずさんだ。
「もし興味があるんなら、いつでも安土に会いに来なよ。待ってるからさ。あ、そうそう、伊賀のお姉ちゃん」
「何よ?」
「これ、お土産」((´∀`*))ヶラヶラ
健斗は佳代の眼前に一匹の蜘蛛をタランと吊るして見せた。
「ふんっ、こんな物、どうせゴムでよく出来たおもちゃでしょ!」
右手で素早く蜘蛛を掴み取った佳代だったが、その瞬間、彼女の顔は凍り付いた。
そんな佳代の様子に気づいた優香が、彼女に背後から声を掛ける。
「どうしたの?」
「バカみたい…」
「誰が?」
「アタシが…」
佳代がゆっくりと右手を開くと、その掌の上では蜘蛛が元気よく?動いているのだった。
「本物だわ!!」
「キャアアッ!!」
佳代と優香が黄色い悲鳴を上げていたその頃には、もう健斗はその場から姿を消していた。
一方、その頃、都内某所の地下。
「偉大なる魔王ヴェズヴァーンよ、今こそこの地に大兵団を遣わしたまえ~!!」
いつの間にか都心地下に張り巡らされた大空洞で、魔王ヴェズヴァーンの使い魔であるインプが魔物召喚の儀式を進めていた。魔法陣から次々と湧いて出る不死の兵士・ゾンビの群れ。
「見ておれ人間ども、それに魔王様の恩顧を忘れたレギウスめ。まもなくこの地は我らの植民地となるのだ! キヒヒヒヒ!!!!!!」
まだ誰にも知られぬところで、密かに魔物たちの陰謀が進行していた。