第52話『安土城占拠事件⑧』

作:おかめの御前様

 

鋭い牙を向けて超スピードで突進するオルカレギウスとそれに続くバベルロイドたちだったが、

イーグレットレギウスは翼の羽ばたきによって作り出した揚力に乗って軽やかにジャンプし、

華麗に空中回転してオルカレギウスの体当たりをかわすと共に、回し蹴りでバベルロイドたちを薙ぎ倒していく。

 

「食らいなさい! フリーザートルネード!!」

 

「な、何いっ!?」

 

イーグレットレギウスは再び手から発した魔力で竜巻を起こしてオルカレギウスにぶつけた。

魔法で発生させた冷気を高速回転させ、絶対零度の突風として撃ち出す、

イーグレットレギウスの必殺技だ。

 

「おのれ!水中戦ならば遅れなど取らなかったものを! 覚えていろ!」

 

部下として連れていたバベルロイドたちを全て倒され、

自身もフリーザートルネードの竜巻で負傷したオルカレギウスは、捨て台詞を吐いて退却していった。

 

「貴方たち、怪我はない?」

 

「ありがとう。おかげで助かりました」

 

「何とお礼を申し上げたらよいのか…」

 

助けてくれた相手に素直に感謝の辞を述べるクリスと楓花。

だが当のイーグレットレギウスは何やらキョトンしており、反応に困っているようなそぶりを見せた。

 

「貴方たち、私が怖くないの?」

 

「えっ、どうしてですか? だって私たちを助けてくれたじゃないですか」

 

「僕にもレギウスの友人はいます。一部の人たちが持つような偏見なんかはありません。

 どうかご心配なく」

 

「そう……」

 

クリスたちの答えにひとまず納得したようなイーグレットレギウスだったが、

続けてクリスたちに質問をぶつけた。

 

「ところで私と同じくらいの年頃の、眼鏡をかけた男の子を城の中で見かけませんでしたか? 

 今日、安土城に来ていると聞いていたのだけれど…」

 

「そうですか。そのお友達が心配で駆けつけて見えられたんですね。

 ただ"同じお年頃"と言われましても、レディに年齢を尋ねる無礼は百も承知ですが、

 そのレギウスのお姿のままでは具体的に何歳なのか僕たちには見当も……」

 

「そうですね。ちょっと待っててください」

 

変身を解除したイーグレットレギウスの白い装甲が、

まるで空気に溶け入るかのように光の粒となって消えて行き、本来の霧崎麗香の姿へと戻る。

 

「き、きれい……」

 

変身解除の瞬間を、まるで憧れのお姉さまでも観るかのようにうっとりと見惚れている楓花。

どうやら彼女は兄とほぼ同世代の年頃の美しい少女のようだ。

それを隣で見ていたクリスは、何やら焼きもちでも焼くかのように「コホンッ」と咳払いをする。

 

「クリスくん…??」

 

「とにかくここでは落ち着いて話も出来ない。場所を移動しましょう!」

 

「そうね。分かったわ。まずは3人で安全な場所に移動を」 


「た、助けて~!!」

 

今日、たまたま安土城に見学に来ていた永原祐樹。

占拠事件の災難に巻き込まれ、しばらく物置に隠れていたものの、逃げた人質はいないかと巡回中であったレドゥビダイダエレギウス(刺亀虫のレギウス)と出くわしてしまい、必死に逃げている最中であった。

 

「さあ、小僧。とうとう追い詰めたぞ!」

 

「お、お願い! 殺さないで!!」

 

「散々逃げ回りおって。せっかくだから俺様の自慢の吸血針の餌食にしてやろう。

 俺の吸血針はただ人間の血を吸うだけではない。

 人間に感染症をもたらし、病をもたらすのだ!!」

 

行き止まりでレドゥビダイダエレギウスに捕まってしまった祐樹。

サシガメ(刺亀虫)は人間などの脊椎動物から吸血する他に、シャーガス病の原因となる感染症を運ぶことがある。シャーガス病は心臓機能低下、心肥大、脳脊髄炎などを引き起こす。このレギウスも同じ能力を持っていることは明らかだ。

まさに大ピンチの祐樹であったが、そんな彼のピンチを間一髪で救ったのはライオンレギウスだ!

祐樹が襲われている現場を偶然見つけた獅場俊一はライオンレギウスに変身し、レドゥビダイダエレギウスに横からショルダータックルを浴びせて弾き飛ばし、その隙に俊一と一緒にいた柏村晴真と桜庭和奏の小学生コンビが祐樹を敵レギウスから引き離す。

 

「お兄ちゃん、こっちだよ!」

 

「早く安全な所へ!」

 

「えっ、しょ…小学生!?」

 

元々体力タイプでもないレドゥビダイダエレギウスなど、百獣の王の力を持つライオンレギウスの敵ではない。ライオンレギウスが次から次へと繰り出すカンフーとムエタイの技で、やがてレドゥビダイダエレギウスはへとへとに。

 

「とどめだ!! コイツを食らえ!!」

 

空高くジャンプしたライオンレギウスのキックが、レドゥビダイダエレギウスめがけて勢いよく決まった。

 

「ぐ、ぐわぁァァッッ!!!!!!」

 

ダメージのショックで、レドゥビダイダエレギウスは人間の姿に戻って完全に気絶してしまった。

 

「やったね!俊一さん♪」

 

「今のうちにコイツを縛り上げておこう」

 

近くの物置で見つけたロープでレドゥビダイダエレギウスだった男をぐるぐる巻きに縛り上げるライオンレギウスの横で、勝利に歓喜の声を上げる晴真。

その名を聞いた祐樹は「えっ!?」と驚く。

 

「俊一…?? もしかして君は?」

 

「…ん? アッ!?お前、もしかして同じクラスの永原か?」

 

ライオンレギウスは割とあっさりと変身解除して、級友に正体を明かす。

 

「本当に獅場君だ! 驚いたなぁ~!

 噂の正義の味方ライオンレギウスの正体が君だったなんて!?」

 

「ちなみに僕は柏村晴真」

 

「私は桜庭和奏といいます。

 東京から修学旅行で安土城に着ていた時にこの騒ぎに巻き込野れたところを俊一さんに助けられたんです」

 

「そうだったんだ。せっかくの修学旅行だったのに、とんだ災難だったね。

 僕は永原祐樹といいます。よろしく」

 

一通りの自己紹介も住んだところで、俊一が言葉を切り出す。

 

「そんなことよりも永原、お前なんでこんなところにいるんだよ?」

 

「安土城の見学に来ていたら、このテロ騒ぎに巻き込まれたんだ。

 と、とにかく…助けてくれてありがとう」

 

「礼には及ばない。ところで永原、俺の妹を見なかったかな?

 中学生でスタジアムジャンバーを着たセミショートのヘアスタイルの女の子なんだけど…」

 

「ごめん。見てない。でも隠れている間にゼルバベルの連中がこんな話をしているのを盗み聞きしたんだ」

 

「どんな内容なんだ!?」

 

祐樹の話によると、まだ逃げていたクリストフォロ・エヴァルド・コルティノーヴィス3世と一緒にいた中学生くらいの女の子の2人を帯曲輪の辺りで発見したという会話をゼルバベルの連中がしていたというのだ。

 

「間違いない! 楓花だ!」

 

妹の所在を確信する俊一。

 

「帯曲輪までなら僕が案内するよ! これでも城内の構図ならある程度詳しいつもりだし」

 

「よろしく頼む!」

 

俊一、祐樹、晴真、和奏の4人は、敵の目を掻い潜りつつ帯曲輪を目指す!

 

「待ってろ! 楓花!」