「…ん? あれは…?」
「どうした?」
「今、空を何か凄いスピードで安土城内の方へ飛んで行ったのが見えた」
「ホントか!? 何も見えなかったぞ!」
「いや、間違いない。確かに白鷺のように見えた何かが帯曲輪の方向に突っ込んで行った」
「もしかして新手のレギウスかな?」
先行して安土城内に潜入した錦織佳代からの連絡を、安土城を望む裏山でずっと待っていた牧村光平、黒津耕司、鈴見樟馬、森橋悠生ブライトウェルの4人だったが、光平が上空を飛んで安土城へ突入する何者かを目撃したと言い出した。
もし何かが空から安土城に侵入したのだとしたら、敵が仕掛けている対侵入者用センサーに引っかかってもおかしくはないのだが、それすら潜り抜けるほどの超スピードだったということだろうか?
それを聞いていた他の3人は半信半疑だったが、そこへようやく佳代が偵察報告のために戻って来た。
「ごめん、遅くなった!…あれっ? 光平、その人たちは?」
「詳しい説明は後だ。それよりも佳代ちゃん、首尾は?」
「甲賀の人たちが見つけてくれた城への抜け穴がある。
そこなら敵の仕掛けたセンサーにも引っ掛からずに難なく城内に入り込めるよ!」
「よしっ、時間がない。今すぐ突入しよう!」
「えっ、城内への抜け穴ですか!?」
<ああ、甲賀の岳玄殿が確保してくれた侵入ルートだ。
そっちからもナビとフォローよろしく頼むぜ!>
「分かった! そっちも油断しないでくれ!」
CSC安土タワーのシークレットエリアにある、ドラゴンレギウスチームの秘密指令室で樟馬からの連絡を受け取るハオランと菜々美。
「菜々美ちゃん、安土城の図面を今すぐモニターに開いてくれ!」
「……今はいつもならすぐ傍にいる紗奈さんがいない。私、一人でできるかな…?」
「菜々美ちゃん…?」
「ど、どうしよう…!! 私、私…ッ!?」
「菜々美ちゃん、しっかりするんだ!!」
パニックに陥る菜々美を一喝して落ち着かせるハオラン。
菜々美にとって、いつもならば万能秘書の村舞紗奈が的確に指示を出し、自分はそれを無難にこなしていればよかった。
だがその紗奈とは現在連絡が取れない。今は自分の判断で情報を識別して臨機応変に判断を下して、
現場にいる樟馬と悠生をパーフェクトにサポートしなければならないのだ。
果たして今の自分にそれが出来るのだろうか…?
「不安なのは君だけじゃない。僕だって緊張で足が震えそうだ。
だけど今は僕と君だけで樟馬たちのサポートをするしかないんだ」
「ごめんなさい…」
「謝ることはないよ。でも大丈夫。
あのクリスと紗奈さんがオペレーターとして太鼓判を押したのが菜々美ちゃんだ。
君ならきっとできる! 俺も全力で支えるから! キミは一人じゃない!」
「ありがとう、ハオランさん。私、精一杯やってみます!」
「よしっ、その意気だ!」
「イヤッ、放して!」
「これはまた、思っても見なかった上玉の獲物だ」
城内を見回っていたオルカレギウスと配下のバベルロイドたちに捕らえられてしまったクリスと獅場楓花。
オルカレギウスは、安土城占拠実行部隊の応援としてゼルバベル本部から差し向けられていたようだ。
「お初にお目にかかる。コルティノーヴィス家の御曹司。
我が名はオルカレギウス。この名は貴殿も聞いたことがあるだろう」
「こちらこそ初めまして、オルカレギウスさん。
それとも久峨コンツェルンのIT担当重役チェーザレ・コレーリア氏とお呼びした方がいいのかな?」
「そこまで調べがついていたとは話が早い。
我がコレーリア家と貴殿のコルティノーヴィス家とは長年の因縁がある関係だからな」
「ところで用があるのは僕だけかな?
出来ればそちらのお嬢さんだけは解放してほしいのだけれど?」
「フハハハハハ、ゼルバベルに情けを期待するなど無駄なことだ」
「くっ…!」
クリスと言葉の応酬を続けるオルカレギウス。ここで一体のバベルロイドが進言する。
「オルカレギウス様、すぐにナザロポフ大佐にもコルティノーヴィス家御曹司捕獲を報告した方が?」
「いや、その必要はない。そもそも私はあんな新参者は嫌いだ。
なぜ手柄を譲ってやる必要がある?」
「し、しかし…」
「うるさい黙れ! 後の面倒ごとは全部ナザロポフに押し付けて、
この金髪碧眼の小僧を連れて我々だけでひとまず撤収するぞ!」
クリスを連れてオルカレギウスたちが引き上げようとしていたその時のことだった!!
超音速と共に帯曲輪の内部に突っ込み、強風と共にひらりと優雅に降り立ったのは、
白い翼を持つ鳥人イーグレットレギウスであった。
「な、何者だ!?」
「レギウスの力を悪事のために使おうとするゼルバベルの手先……観念なさい!」