第9話『冒険の始まり』

作・おかめの御前様

 

あれから数日たった日曜日。俺、草川律希は再び異世界アレスティナへ向かうことになった。時空の賢者としてのこれからすべきことや心構えについてレクチャーを受けるためだ。ところがどこから嗅ぎつけて来たのか、桐尾史奈先輩もまた一緒に連れてってくれと言ってきた。普段から好奇心旺盛な先輩は未知の異世界にも興味津々のようだが、即座に俺は「ダメです!」と断る。だってそうだろう。魔物がうろついているような危険な世界に女の子を連れては行けない。そしたら史奈先輩がいきなり泣きそうな顔をした。えっ!?ちょ、ちょっと待ってください。まるで俺が泣かしたみたいじゃないか!…あーくそ、分かりましたよ。分かりましたから、一緒に行きましょう。(後から冷静になって考えれば、あれは明らかに泣き真似だったんだろうけど…)

 

 再びアシュタミル王国の王都レイアロスに到着。今回は王都から北東にある方角にあるユピムの塔へ行くことになった。そこにアレスティナ世界を大いなる災いから救うという勇者にとって必要なある重要なアイテムが眠っているという。それを取りに向かうのだ。俺たちの護衛として二人の王宮兵士が同行することになった。ラズィドさんとセレアさんだ。

 

 ラズィドさんもセレアさんも王様の信任厚い、経験豊富で凄腕の王宮兵士だそうだ。そういった人にボディーガードしてもらうのは正直心強い。でも守ってばかりいられるのも何か申し訳ない。やっぱ自分の身くらいは自分で守れないと。実は俺自身も武術を習いたいと申し出たんだが、ラズィドさんから断られた。

 

「時空の賢者殿のおられる世界は、戦はおろか、身の回りでは殺しや盗みも滅多に起きないほどの平和な国だと聞き及んでおります。誠に失礼ながら、そのような世界で長い間お暮しだった賢者殿に、いざという時に命のやり取りができるとは思えません。中途半端に武術を覚えられるのはかえって迷惑。どうか身辺の警護は我々におまかせください」

 

 ちょっとムッとする言い方だったけれど、確かにラズィドさんの言い分も一理はあるような気もする。分かった。俺たちの警護は二人を全面的に信頼して任せよう!

 馬車に乗って移動し、そうこうしているうちにもう塔の入口へと辿り着いた。入口の門は固く閉ざされているが、時空の賢者のみが開くことができるという。案の定、俺が手をかざすと簡単に扉が開いた。いよいよ塔の中の探検だ。中には魔物とかいるのかな…? 少し不安だな。せめて史奈先輩だけでも俺が守らないとな!

 

 しかし俺たちはまだ気づいていなかった。「異世界から時空の賢者が現れた」との情報を聞きつけていた盗賊団が、塔周辺で待ち構えるように息を潜めて潜伏していたことに…。