第8話『時空の賢者、アレスティナへ!』

作・おかめの御前様

 

 俺の名前は草川律希。ここ滋賀県安土市にある京桜靖大学に通う男子大学生だ。ある日、同じ考古学部の先輩である桐尾史奈さんと一緒に、大学内の図書館で教授から頼まれていた明日の講義で必要な資料の整理や調べ物をしてたんだが、一冊の見たこともないような文字で書かれた古びた魔導書のような本を開いた瞬間、俺と史奈先輩は光に包まれ、不思議な大地へと飛ばされてしまった!

 

 何もない大草原を目の前にして、しばらく呆気に取られている俺と史奈先輩。スマホも完全に通じなくなっている。そして驚くことに俺たちの真上の大空を巨大なドラゴンが飛んでいる! これって映画の撮影か何かか? いや違う…ここは本当に異世界なんだ! マジかよ……。

 

 そんな時、六本脚でサソリの尻尾を生やしたライオンみたいな化け物が、俺と史奈先輩めがけて襲ってきた! 慌てて逃げる俺たち。俺たちなんか食べたってきっと美味しくないぞ。でも史奈先輩が転んでしまった! 史奈先輩は「私に構わないで逃げて!」って叫んでくれた。でも女の子を見捨てて一人で逃げられっかよ! あーもうこん畜生!! どうにでもなりやがれ! 俺は何も考えず無我夢中で魔物相手に突っ込んで行った。この隙に史奈先輩、なんとか逃げてくれ。

 だが間一髪でラッキーなことに、どこかの王国の魔物討伐隊らしき兵隊さんたちが駆けつけてきて、魔物を追っ払ってくれた。

 ふぅー助かったぁー!と命拾いして一息ついたのも束の間、どうやら兵隊さんたちは、俺たちのことを不審者だと思ったらしい。俺と史奈先輩は兵隊たちに縄を打たれて、王都まで連行されることになった。くっ、何をするんだ! 俺たちは怪しい人間じゃない!……って言っても無理か。

 

 王様の前に引き出された俺と史奈先輩。これからどうなるんだろうと不安に駆られていると、王様は俺たち二人を縛っていた縄をすぐさま解くように兵士に命じた。

 

「手荒な真似をしてすまなかった」

 

 王様はそう言って、俺たち二人に頭を下げて謝罪した。王様の説明によると、ここはアレスティナと呼ばれる異世界で、バイアピオス大陸にあるアシュタミル王国王都レイアロスの王城だそうだ。数日前、この国の大神官の予言で、異世界から時空の賢者が現れるという神のお告げがあったそうだ。その時空の賢者が俺だって!? いやいやいやいや…何かの間違いでしょ! 俺はただのしがない大学生ですったら!

 

 王様の話では、ホッパーレギウスとかいう伝説の英雄を祭る神殿奥の祭壇に突き刺さっている賢者の剣を抜くことができれば、それは本物の時空の賢者である証らしい。王様に言われるがまま、城の役人に案内されて早速神殿へと向かった俺と史奈先輩。確かに神殿奥には剣が突き刺さった祭壇があった。まずは好奇心旺盛な史奈先輩が、まずは自分からと言い出し試してみる。力いっぱい引き抜こうとするが、剣はビクともしない。続いて俺がチャレンジ。あっさり引っこ抜けてしまった…(汗)。

 

 マジかよ…。でも俺はいったいこれからどうすればいいんだ? まさか俺に魔王を退治しろだなんて言わないよな? 幸い現在のアレスティナ世界には、(野良の魔物は平地を跋扈しているが…)平和を脅かす魔王のような大きな脅威は存在しないとのこと。しかし時空の賢者が現れたということは、近い将来アレスティナ世界に大きな災いが降りかかる前兆でもあるらしい。それに備えるため、俺たちの住んでいる世界=地球のどこかにいるという勇者を探し出して連れてきてほしい。それが時空の賢者である俺に課せられた使命とのことだった。

 

 でも俺は大学の勉強もあるし、サークル活動やバイトも忙しいし、勇者探しなんてしている暇なんかないぜ。しかし神殿の大神官は、「積極的に探す必要はない。時空の賢者あるところ、いずれ向こうから勇者は自然とやって来る」と俺たちに話してくれた。それまでは普通に生活しててもOKとのことだ。正直安心した。

 

 渡された賢者の剣に俺が神経を集中させて念を込めれば、地球とアレスティナを自由に行き来できるそうだ。言われた通り、俺と史奈先輩は、無事に日本に帰ることができた。

 

「史奈先輩、すみません。俺のせいで危険なことに巻き込んでしまって…」

 

「ううん、気にしないで。それよりもあの時魔物に襲われた私を草川くんが身を挺して守ろうとしてくれた時、とっても嬉しかったよ♪」

 

 史奈先輩の癒される天使の笑顔に、俺は思わず顔が赤くなってしまった。な、何を期待してるんだ俺は! 俺と史奈先輩は決してそんな関係じゃないぞ…(///)。ちなみに史奈先輩は、再びアレスティナに行く気満々らしい。あんな怖い目に遭ったっていうのに、この人もタフだよなぁ~。

 

 俺たちを異世界アレスティナへと転移させた、大学の図書館にあったあの魔導書は、書庫整理のため今後処分される予定だと図書館の司書から聞いたので、お願いして特別に譲ってもらった。何か貴重なアイテムだと思うので、念のために確保しておこう。

 

 元の世界へと帰って来た俺たちを待っていたのは、テレビで流れていた「レギウスと呼ばれる怪人が世間で暴れている」というニュースだった。レギウス…?? ホッパーレギウスと何か関りがあるのだろうか? 俺たちは何かとてつもないことに巻き込まれている予感がしたのだった。