第26話『伝説の天凰輝』

作:おかめの御前様

 

桜庭和奏誘拐事件で、犯人から要求のあったスーパーソーラーXの研究データ引き渡しの取引現場に立つ、祖父の善二郎博士。周囲は通りすがりの通行人に変装したブレイバーフォース隊員が固める。

しかし案の定というか指定された取引場所は犯人からの連絡で二転三転と移動させされ、

追尾していたブレイバーフォースと博士は巧妙に引き離されてしまった!

博士が一人で運転する車のトランクには、和奏を心配するあまりトランクルームに勝手に潜り込んでいた柏村晴真が潜んでいることなど誰も知らずに…。

 

「わ、和奏…!」

 

「んーん、んーっ!!(おじいちゃん!!)」

 

「滝山君、やはり君だったのか!?」

 

「クククッ…お久しぶりですね、桜庭博士」

 

郊外某所の廃墟にやって来た博士を待ち受けていたのは、縛られ監禁されていた孫娘の和奏と、

かつて勤務態度不良を理由に解雇した助手の男だった。 

 

「滝山君、馬鹿な真似はよせ!」

 

「黙れっ!! あの時あんたにクビにされていなければ、今頃俺は…」

 

和奏を誘拐した犯人・滝山俊彦は、その後ギャンブルの借金で首が回らなくなり、一度は自殺未遂にまで追い込まれたらしい。

しかし何の因果か生き延びた滝山はスーパーソーラーXのデータを手に入れて、それを海外の軍需産業に売り渡す計画を思いついたのだという。

 

「君はそれでも科学者か!? 科学者は平和のために!」

 

「うるさいっ!! さあ、大事な孫娘の命が惜しければ、

 スーパーソーラーXのデータの入ったそのディスクをさっさと渡すんだ!」

 

博士と滝山が口論しているうちに、こっそりと後方から回りこんだ晴真が縛られている和奏に接近する。

 

「和奏、大丈夫か?」

 

「んんっ!?(晴真くん!?)」

 

「しーっ、静かに! 待ってろ、今解いてやるからな」

 

和奏のロープを解く晴真だったが、今まで口論に気を取られていた滝山が背後の気配に気づいてしまった!

 

「小僧ッ!! そんなところで何をしている!?」

 

「ゲッ、やべえ!! 和奏、逃げるぞ!!」

 

「うん!!」

 

「待て、逃げられると思っているのか!?」

 

滝山は怪人体へと変身し、頭部に菫色の花弁が象られた有毒植物トリカブトのレギウス ―― ヘルメットフラワーレギウスの正体を現した。ヘルメットフラワーレギウスの両手から伸びる蔦が、逃げる晴真と和奏の両脚を捕らえる!

 

「うわぁ!!」

 

「キャアアッ!!」

 

晴真と和奏は床に転んでしまった。

二人とも片足にしっかりと蔦が絡みついていて身動きが取れない。

 

「さあ博士、データを寄越すんだ。

 さもないと今すぐこの2人のガキを俺様の猛毒の餌食にしてやるぞ!」

 

「ダメよ、おじいちゃん! そのデータは大事な物なんでしょ! 悪い人なんかに渡さないで!」

 

「小娘め、余計なことを。ならば望み通りお前から猛毒触手の実験台にしてやろうか?」

 

「やめろ! やるなら僕から先にやれ!」

 

「晴真くん…」

 

身を挺して自分を庇おうとする晴真の姿に、一瞬顔がポッと赤くなり見とれてしまう和奏。

 

「わかった。データは渡す。だからその二人には手出しはするな」

 

博士が諦めてディスクが納められたアタッシュケースを渡そうとしてその瞬間、

どこかから手裏剣が飛んできて晴真と和奏の足を拘束していた蔦が切られた。

それと同時に煙玉が投げ込まれて空間に煙幕が充満し、周囲が全く見えなくなる。

 

「さあ、早くこっちへ!」

 

「えっ? おねえちゃんは誰?」

 

晴真たちはくノ一衣装に身を包んだ女の導きで、この隙に安全な場所まで誘導される。

どこかで聞いたような声だったが、煙のせいで顔はよく見えなかった。

 

「な、なんだ!? 何が起きたんだ!」

 

ようやく煙が晴れて周囲が見渡せるようになったその時には、すでに博士と晴真、和奏3人の姿は消えていて、代わりにヘルメットフラワーレギウスの目の前に立っていたのは、見たこともない一人の大学生くらいの年頃の青年だった。

 

「何だ貴様は? 博士やガキどもをどこにやった!?」

 

「もう博士や子供たちは安全の場所へと避難させた。諦めろ、もうお前の企みは終わりだ」

 

「何だとォォッッ!!」

 

「フッ、俺の名は牧村光平。まあ中には天凰輝シグフェルなんて呼ぶ者もいるけどな」

 

天凰輝シグフェルだと…?

 

天凰輝シグフェル ―― その名はヘルメットフラワーレギウスも聞いたことはある。

でもそれはネット上の都市伝説で語られているだけのヒーローに過ぎない。

 

「笑わせるな。その天凰輝シグフェルやらがこんなところにいるものか。

 どうせハッタリをかますなら、もっとマシな嘘をつきな坊や!

 

あざ笑うヘルメットフラワーレギウスだったが、

光平は全く意に介する様子もなく変身のポーズを取る。

 

翔着!!(シグ・トランス!!)

 

光平の身体はオーラの輝きを発して眩い閃光と炎に包まれ、

一瞬でメタモルフォーゼを完了し、紅蓮の鳳凰の戦士、天凰輝シグフェルへと化身した!

いきなりの思わぬ展開に、たじろぐヘルメットフラワーレギウス。

 

「そ、そんなバカな!? 天凰輝シグフェルが実在しただと!?」

 

「天が煌(きら)めき、凰が羽撃(はばた)く。輝く我が身が悪を断罪せよと駆り立てられる!
 天凰輝シグフェル、戦神(マーズ)の剣(つるぎ)とともに見参!

 貴様のような歪(いびつ)、捨て置けぬ!覚悟しろ!」

 

「ほざくな! 天凰輝シグフェルの力、いかほどの物か! 返り討ちにしてやる!」

 

天凰輝シグフェルVSヘルメットフラワーレギウスの戦いが始まった!

 

「行け、我がしもべ、ホムンクルスの兵士たちよ!」

 

ヘルメットフラワーレギウスは、手下のホムンクルス兵士たちを召喚して嗾けるが、

シグフェルはいずれも一刀のもとに切り捨てて行く。

 

「天を斬り裂き、烈火を纏(まと)う我が剣(つるぎ)!

 歯向かう悪を一刀両断、滅殺殲滅!受けよ断罪の炎! 斬天紅蓮の太刀(たち)! 

 チェストォォッッ!!!!!!!!!!」

 

天凰輝シグフェルの薩摩示現流の一撃、

斬天紅蓮(ざんてんぐれん)がヘルメットフラワーレギウスに決まった!

 

「ぐわああああッッ!!!」

 

断罪の炎に焼かれる燃え尽きんとしているヘルメットフラワーレギウスは、

最後に声を振り絞るように不気味な捨て台詞を言い放った。

 

「…正義面して、思い上がるな。いずれ貴様も…きっと、死の裁きを受けるぞ…!」

 

「なにっ?」

 

「……恐ろしき、我らが魔王、ヴェズ…ヴァーン…さまっ……ぐぶっ!!」

 

それだけ言い残して、ヘルメットフラワーレギウスは木っ端微塵に爆発して息絶えた。

 

「魔王ヴェズヴァーン…いったい何者なんだ?」

 

 

勝利を手にしたものの、ヘルメットフラワーレギウスの今わの際の一言が、どうにも頭に引っかかるシグフェルであった。そして密かにホムンクルス兵士の一体が戦闘の混乱のどさくさに紛れて生き延び、密かにその場から離脱したことには誰も気づいてはいなかった…。


「まさか君が、あの噂の天凰輝シグフェルだったとはな…」

 

「すみません。隠しているつもりはなかったんですが…」

 

「優香ちゃんや奈津子先生まで、そのことを知っていながら俺に黙っていたなんてな。

 まあ無理もないが…」

 

事件の顛末をブレイバーフォース隊長・斐川に報告する光平。

斐川は、今まで自分一人だけシグフェルの実在とその正体を知らされていなかった事実に、(それを根に持ったりはしないが)少し納得がいかず正直面白くないという様子だ。

 

「進藤、お前も彼の正体を知っていたのか? なぜ俺に黙っていた?」

 

「松井本部長から固く口止めされていたもんで」

 

斐川の問いに、進藤は悪びれす様子もなく釈明する。

 

「とにかく事件解決への協力は感謝する。

 あの天凰輝シグフェルが我々の味方になってくれれば心強いことは確かだ。

 これからも協力してもらえないか?」

 

「いえいえ、俺は民間人ですし、悪いレギウス退治はあくまでブレイバーフォースの皆さんのお仕事ですから。俺はなるべく出しゃばらずに引っ込んでいますよ。ねえ進藤さん?」

 

「フン、そう願いたいもんだな」

 

「そうか、それは残念だな。でももし気が変わったらいつでも連絡してきてほしい。

 我々はいつでも君を歓迎するよ!」

 

「ところで斐川さん、魔王ヴェズヴァーンという言葉に聞き覚えはありませんか?」

 

光平は、ヘルメットフラワーレギウスが死の間際に言い残した謎の名について、

もしやと思い斐川たちに尋ねてみた。

 

魔王ヴェズヴァーン…? いや、知らないな。初めて聞く名だ

 

「それがいったいどうしたんだ?」

 

「あ、いえ…別に。そうでしたか。やっぱりブレイバーフォースの方でも分かりませんか…」

 

魔王ヴェズヴァーン ―― 果たしてその不吉な名は何を意味しているのだろう?

 

ちなみにその後、晴真は和奏に過去のイタズラ行為を謝罪し、受け入れてもらえたとのこと。

今ではこれまで以上に2人の仲は睦まじく進展しているらしい💓? 


一方、ここは滋賀県安土市。まだ日も上がっていない暗い早朝の時刻の蕎麦屋・上総堂。

店主の稲垣岳玄が一人で本日の仕込みに取り掛かっていたところ、

一人のホムンクルス兵士 ―― いや、より正確に言うとホムンクルス兵士そっくりの着ぐるみを着込んで変装し、滝山俊彦ことヘルメットフラワーレギウスの一味に潜り込んでいた甲賀忍者の一人が姿を現していた。

 

「何者じゃ?」

 

「………」

 

「耳助(みみすけ)か?」

 

「…桜庭博士の孫娘を誘拐していた一味のアジトが襲われました」

 

「………」

 

何食わぬ顔で蕎麦の仕込みを進めながら、

作業場の窓の外に片膝をついて控える配下の忍者・耳助からの報告に耳を傾ける岳玄。

 

「おそらく全滅。生き延びたのは某(それがし)一人かと」

 

「何者の仕業じゃ?」

 

「天凰輝シグフェルと名乗る、得体のしれぬ超人戦士」

 

「シグフェル…?」

 

「いかにも!」

 

「フフフ…魔王復活のために働きながら、邪な者を焼き尽くす紅蓮の鳳凰を呼び覚ましてしまうとは。

 皮肉なものよ」

 

岳玄は何かを知っているのか、不敵に笑うのであった。