第13話『天使と竜たちの招待』

作・おかめの御前様

 

考古学者で、獅場俊一&楓花の両親でもある獅場修二郎&曜子夫妻は、
ニューギニア島の洞窟壁画の調査を終えて日本へ帰国しようとしていた。

 

「あの壁画に書かれていた古代文字は、
 前にタスマニア島で発見された石板に刻まれていたのと恐らく同じ言語ね。
 石板の解読はまだほとんど進んでいなかったけど、
 もしかしたらあの予言と何か関係のある内容だったのかも知れないわ」

 

「あの壁画が描かれた年代についてはまだはっきり分からないけれども、
 アボリジニやマオリ族のようなオセアニア先住民が現れるよりずっと昔に、
 南太平洋一帯に文明を築いていた人々がいたのかも知れないね」

 

そんな会話を交わしつつ、空港で出国手続きをして飛行機に乗ろうとしていた二人だったが、
その時、突如空港がイソギンチャクの怪人ローパーレギウスに襲われた。

混乱の中逃げ惑う人々を、レギウスの触手が次々と捕らえていく。
触手に刺された人々は毒に犯され、悲鳴を上げてもだえ苦しんでいる。

 

「獅場修二郎と妻の曜子だな?」

 

目の前に立ち塞がったローパーレギウスに自分たちの名前を呼び止められ、夫妻は動揺する。


「き、君は一体何者だ!?」


「お前たちは知り過ぎた」


「どういうことなの!?」


「見ちゃならねえもんを見ちまったってことだよ。死ね!」

 

ローパーレギウスの触手が伸びて修二郎と曜子の心臓を貫こうとしたその瞬間、間一髪で音速の速さでそれを防いだのは、2体の赤と緑の竜型のレギウスだった!

 

「な、なんだ貴様らは!?」


「お前の相手は俺たちだ!」


「なんだと!? しゃらくせえいッ!! ならまずはお前らから片付けてやる!」

 

無数の触手が自在に伸びて一斉に竜型レギウスを襲うが、2体は猛スピードで難なくかわしていく。

 

「ハハハ、お前の触手がまるでスローモーションみたいに見えるぜ♪」


「馬鹿め、どこを見ている!?」


「なにっ!?」


「キャアアッ!!」


「曜子ォォッッ!!」

 

なんとローパーレギウスの触手の一本が、曜子の身体を掠ってしまったのだ!
曜子はたちまちその場に倒れ込む。

 

「う、ううっ…」


「曜子、しっかりしろッ!!」


「グハハハ、俺の毒は微かに掠っただけでも3時間以内には体内の全身を回り死ぬぞ!」


「くっ、しまった!」


「樟馬、もう時間がない! コンビネーションアタックで決めるぞ!」


「よしっ、わかった!」

 

「「ドラゴンクローフィニッシュッッ!!!!!!」」

 

「ぐ、ぐわあああッッ!! む、無念だぁ~~!!!」

 

必殺技でとどめを刺され、大爆発して四散するローパーレギウス。
そこへ眼鏡をかけた東洋人の青年が救命キットを持って、獅場夫妻の元へ急いで駆け寄ってきた。

 

「すみません! どいてください!」


「ハオラン、こっちだ! 急いでくれ!」


「待って、今処置するから!」

 

ハオランと呼ばれた青年は、すぐに救命キットの箱から解毒剤を取り出し、それを毒に苦しむ曜子の左腕に注射する。すると曜子はみるみる落ち着きを取り戻した。

 

「あ、あぁ……何かすぅ~と痛みが抜けて楽になった感じだわ~」


「曜子、気が付いたのか!?」


「もう大丈夫ですよ」


「ハオラン、毒に冒されている他の人たちも!」


「わかった!」

 

他の被害者たちにも解毒剤が注射されて次々と救助される中、

2体の竜型レギウスは変身を解いて人間の姿に戻る。

見ると二人とも高校3年生か大学1年生くらいの年頃の若者だった。

赤い竜だった方は、日本人らしい黒髪の青年。

そして緑の竜だった方は、金髪をしたアングロサクソンっぽい知的そうな瞳の青年だ。

 

「き、君たちは!?」


「考古学者の獅場修二郎博士と奥さんの曜子さんですね?」


「そ、そうだが…」


「恐れ入りますが、これからある場所までご足労願えますか? 俺たちのボスがお二人をお待ちです」


「???」

 

未だに事態が呑み込めずチンプンカンプン状態の獅場夫妻の横で、

黒髪の青年がスマホでどこかに連絡を取っている。

 

「もしもし紗奈さん? こっちは片付いた。

 獅場夫妻も無事保護してる。―――分かってるって。今からそちらに向かうよ」

 

そうして二人の青年に案内されて夫妻が就いた先は、島の港に停泊している豪華なクルーザーだった。
船体の周囲や内部は機関銃を持った私設警備兵が常に巡回していて、何か物々しい雰囲気だ。
応接間へと通された夫妻を、金髪碧眼の美少年が丁重に出迎え日本語で挨拶してきた。

 

「ようこそお越しくださいました、獅場博士。

 僕の名はクリストフォロ・エヴァルド・コルティノーヴィスと申します」


「コルティノーヴィス…? ま、まさかあの世界有数の大富豪コルティノーヴィス家!?」

 

目の前の華奢で細身な美少年を見た瞬間、道理で一度どこかで見たことがあると修二郎は思った。
クリストフォロ・エヴァルド・コルティノーヴィス3世と言えば、

世界の海運王コルティノーヴィス家の御曹司であり、

またその天使のような容姿から世界的な人気モデルとして活躍していて、

娘の楓花も彼の大ファンなのだ。

 

「…と、とにかくこの度は私たち夫婦の危ないところを助けていただき、

 どうもありがとうございます。えっと…その…クリ…クリ…クリスフォー」

 

修二郎は緊張も手伝って、相手の長すぎる名前を呼ぼうとしてつい舌を噛んでしまう。

横ではそんな夫の姿を見ている妻・曜子は必死に笑いを堪えており、

修二郎としては大変ばつが悪そうだ。

クリストフォロはそんな修二郎の様子に気づいて、彼を気遣い言葉をかける。

 

「ハハハ、どうか僕のことはクリスとお呼びください」(=^_^=)

 

百万ドルの価値があると言われる天使の笑顔で微笑みかけられ、修二郎もようやく緊張が解けた。

 

「ところでクリスさん、私たちへのご用件とはなんでしょうか?」

 

そこでクリスは、修二郎たちが発掘していた洞窟の壁画に描かれていた予言は、

決して古代人の迷信などではなく、これから起ころうとしている現実の差し迫った危機なのだと告げる。

 

「まさか、俄かには信じられん…」


「信じられないのも無理はありません。でもこれは事実なのです。現に洞窟の壁画に描かれた古代文字を解読された博士は、つい先ほど敵の手で口封じのため襲われたばかりではありませんか」


「た、確かに…。しかし一介の学者に過ぎない私たちにどうしろと?」


「高名な考古学者であるお二人には、考古学の見地から将来起こるであろう魔王復活に備えるべく、

 僕たちが秘密裏に設立した特別チームにアドバイザーとして協力していただきたいのです。

 そのための資金協力は惜しみません」

 

クリスの言葉に、彼の横に控えていた美人の女秘書=村舞紗奈が補足説明を続ける。

 

「勿論これは強要ではありません。お断りなさっても結構です。

 ですが魔王ヴェズヴァーン復活の予言に少しでも関わってしまった以上、

 おそらく敵はまた次も襲ってきます。決して脅すわけではありませんが、

 貴方方ご夫妻のみならず、日本にいらっしゃるお子さんたちにも危険が及ぶかもしれません。

 レギウス相手に既存の軍や警察では役に立ちませんし、

 ここは私どものフォローとサポートを素直に受け入れられた方が無難だと思われますが?」


「あなた…」


「………」

 

妻・曜子が心配そうに夫の顔を見つめる中、修二郎はしばし沈黙したのち決断した。

 

「どうやら選択の余地はないようですな」


「お引き受けいただけますか!?」


「私たち夫婦がどこまでお役に立てるか分かりませんが、アドバイザーの件、お引き受けしましょう」

 

世界中を飛び回り多額の研究費を必要とする考古学者にとって、

願ってもない大口のスポンサーに出会えたという幸運が舞い降りたことも事実だが、

何より自分と愛する家族の生命と安全を守ることこそが第一である。
この日から修二郎とクリスは互いに手を取り合う協力関係となった。