第12話『獅子と隼の邂逅』

 

「こっちだ。千秋」

 

「うん」

 

千秋の手を引いて、安土駅のバスターミナルから外へ逃げる俊一。
だが、そんな二人の前に緑色の装甲を纏ったリザードマンのような怪人が立ち塞がった。

 

「よう、ちょっと待ちな!」

 

「くっ、またレギウスか…!」

 

トカゲ型の怪人・リザードレギウスは千秋を庇おうとする俊一の脇腹にいきなりパンチを浴びせ、
悶絶して前のめりに倒れかけたところを力一杯蹴り飛ばした。

 

「うわぁぁっ!!」

 

ライオンレギウスに変身して戦う暇さえなく、
凄まじい脚力で吹っ飛ばされた俊一は服屋のショーウィンドウのガラスを突き破り、
店内の壁に叩きつけられて倒れ込んでしまった。

 

「俊一!」

 

「ケッ、人質は一人で十分だ。野郎に用はねえんだよ」

 

俊一を片づけたリザードレギウスは片手をかざし、何かを念じるかのように力を込めた。
すると、リザードレギウスの目の前の空間が歪み、
長い一本のロープがどこからともなく出現したのである。

 

「きゃぁっ!」

 

レギウスが持つ超能力の一つ、召喚魔法でロープを瞬間移動させたリザードレギウスは、
今度は念動力によって手を触れることなくロープを操り、千秋の体に巻きつかせた。

 

「一丁上がり、っと。さあ来い!」

 

「嫌っ! 離してぇっ!」

 

魔法の力で千秋を縛り上げたリザードレギウスはロープの端を掴んで乱暴に引っ張り、
無理に歩かせて彼女を元いたバスターミナルの方へと連行していった。


「たぁっ!」

 

「ギェェッ! おのれ、やるな貴様…!」

 

その頃、バスターミナルでは、ファルコンレギウスが鋭いパンチを連続で繰り出し、
スクィッドレギウスに猛攻を浴びせて怯ませていた。
ブレイバーフォース日本支部隊長の名に恥じない洗練された技で、
ファルコンレギウスはスクィッドレギウスを圧倒し追い詰めてゆく。

 

「そこまでだ。動くんじゃねえ!」

 

防戦一方のスクィッドレギウスがもはやダウン寸前となったその時、
リザードレギウスが現れ、捕らえてロープで緊縛した千秋の姿を見せつけた。

 

イラスト提供:nekubi

 

「さ~て、この女の子がどうなってもいいのかな? 隊長さんよ」

 

リザードレギウスは召喚魔法でナイフを呼び出して片手に握り、
その銀色の刃をゆっくりとかざして煌めかせた。

 

「やめろ! 市民に危害を加えるな!」

 

「やめてほしけりゃ、抵抗するなってんだ」

 

「くっ、卑怯な…」

 

一般市民を人質に取られてしまっては万事休す。
リザードレギウスの要求に応じてファルコンレギウスが動きを止めると、
スクィッドレギウスがすかさず背後から襲いかかった。

 

「うわぁっ!」

 

「避けるなよ。あの娘を殺されたくなかったらな」

 

10本の長い腕を代わる代わるに繰り出してファルコンレギウスを殴打するスクィッドレギウス。
人質の命を守るためには反撃も回避も許されず、
ファルコンレギウスは一方的に殴り続けられてしまう。

 

「私に構わず戦って下さい! うっ…!」

 

「余計なことを喋るんじゃねえ!」

 

涙声で叫んだ千秋の首をリザードレギウスが絞めつけ、言葉を封じた。
その間にも無抵抗でスクィッドレギウスに痛めつけられていくファルコンレギウス。
市民を犠牲にしてでも敵の撃滅を優先するという選択は、
正義感の強いファルコンレギウスとしては到底できないことであった。

 

「ぐぁぁっ!」

 

「そろそろ止めだ。俺様のイカ墨で生きたまま火葬してやろう」

 

傷だらけになって地面に倒れ込んだファルコンレギウスに、
スクィッドレギウスは必殺武器である発火性の墨を浴びせようとする。

 

「よしよし、いいぞスクィッドレギウス! 
 そのまま焼き殺しちまえ! …ん?」

 

なぶり殺しのショーを楽しむように笑い声を上げるリザードレギウスだったが、
次の瞬間、背後から猛スピードで接近してくる異常な高エネルギー反応を感じて振り返る。
後ろを向いたと同時に、リザードレギウスの顔面を強烈なパンチが襲った。

 

「ギャァァッ!!」

 

「あっ…!」

 

咄嗟に振り向いた千秋が歓喜の表情を浮かべる。
不意打ちでリザードレギウスを殴り飛ばしたのは、
俊一が変身したライオンレギウスであった。

 

「千秋、ケガはないか?」

 

「うんっ!」

 

「早く逃げろ」

 

ライオンレギウスは千秋を縛っていた特殊素材のロープを怪力で引き千切り、
拘束を解いて助け出した。
自由の身となった千秋はすぐに走ってその場から逃げ去る。

 

「て、てめえは、あの噂のライオンレギウス…!?」

 

「よくもこんなことをしてくれたな。許さん!」

 

ナイフを投げ捨てたリザードレギウスは再び召喚魔法で剣を呼び出し、
唸りを上げてライオンレギウスに斬りかかった。
千秋に乱暴を働かれたライオンレギウス=俊一の怒りも凄まじく、
ぶつかり合った両者は激しい戦いに突入する。

 

「あれは…!?」

 

ブレイバーフォースのデータにはない新たなレギウスの出現に驚くファルコンレギウス。
燃えるような赤い装甲を纏ったライオンレギウスの戦闘力は非常に高く、
振り下ろされたリザードレギウスの剣を右腕で難なく防ぐと、
すかさず左手の重いパンチを叩き込んで転倒させる。

 

「よし、今だ!」

 

ともかく、人質が救出されたとなれば反撃の好機である。
立ち直ったファルコンレギウスはスクィッドレギウスの突進をジャンプでかわし、
翼で羽ばたいて軽やかに宙を舞うと、落下しながらのキックを敵の頭部に浴びせた。

 

「つぁぁっ!!」

 

「グェェッ!」

 

重力を乗せた高空からの飛び蹴りを受けて仰向けに倒れるスクィッドレギウス。
着地したファルコンレギウスは召喚魔法で武器をテレポートさせて手に持った。
ブレイバーフォースの最先端の科学力で開発された、
銃と剣の両方に変形可能な万能兵器・ブレイバーライザーである。

 

「ブレイバーライザー・ガンモード!
 プラズマレーザービーム、発射!!」

 

「ギェェーッ!!」

 

銃型に変形したブレイバーライザーから放たれたビームはスクィッドレギウスの腹を貫いた。
スクィッドレギウスの体内に蓄えられていた黒いイカ墨が傷口からあふれ出し、
それが空気に触れたことで炎上。
スクィッドレギウスは自らの武器で身を焼かれ滅びてゆく。

 

「チッ、覚えてやがれ!」

 

ライオンレギウスの猛攻で押しまくられ劣勢となっていたリザードレギウスも、
仲間が倒されたのを見てこれまでと観念。
魔法で瞬間移動し、光に包まれてその場から消えた。

 

「ライオンのレギウス…」

 

こうして戦いは終わった。
立ち尽くすライオンレギウスの姿を見つめ、
しばし無言のまま対峙するファルコンレギウス。

 

「っ…!」

 

ファルコンレギウスが何か言葉をかけようとしたその瞬間、
ライオンレギウスは両足で地面を強く蹴って大きくジャンプし、
逃げるかのように姿を消してしまった。

 

「うぅっ…! 今は無理か」

 

スクィッドレギウスに叩きのめされてダメージを負っていたファルコンレギウスに、
ライオンレギウスを追いかける余力は残されていなかった。
よろめいて地面に片膝を突いたまま、レギウスへの変身を解除する喜紀。

 

「一体何者なんだ? あのレギウスは…」

 

ブレイバーフォースや警視庁、日本政府もまだ存在を把握していない、
赤い獅子のような姿をしたレギウス。
その正体は不明ながら、今回はひとまず窮地を助けられたのは事実である。
ライオンレギウスが自分たちの敵となる悪の怪人ではなく、
共に人類を守る仲間となれる存在であってほしいと心密かに願う喜紀であった。