EPISODE1『暗躍する美少女』

 

安土市を本拠地とするラグビーのプロ球団・安土レイカーズは、

安土新都開発計画の始動と同時に創立されたまだ歴史の浅い新興クラブながら、

この街の開発を担う久峨コンツェルンの関連企業をいくつもスポンサーに擁し、

その豊富な資金力をバックに数多くのスター選手を補強。

伝統ある他球団とも互角以上の戦いをして上位進出を狙う強豪にして、

スポーツを通じて街を盛り上げている安土市民の誇りでもある。

 

「おお~っ! 行け行けウォーレン! 一気に突っ切れ!」

 

琵琶湖の湖畔に建つ安土レイクスタジアムでは、

レイカーズの選手たちが観客の大声援を受けながらフィールドの上で躍動している。

その中心として活躍するのはラグビーの本場ニュージーランドの出身で、

日本に帰化したばかりのフランカー・亜嵐ウォーレン選手であった。

 

「凄い所を狙ったキックパスだな~。

 さすがはラグビー最強国のニュージーランド育ち。

 ただパワフルなだけじゃなく、テクニックや戦術眼も一級品だ」

 

レイカーズの熱烈なファンで、安土江星高校のラグビー部に所属している鯨井大洋は、

スタンドで応援の声を上げながら亜嵐の見事なプレーに目を見張る。

将来はプロのラグビー選手になってレイカーズに入団したいという夢を持つ大洋にとっては、

自分と同じポジションの亜嵐は単に好きな選手というだけでなく、

最高のお手本であり自身の目標ともなっている存在なのだ。

 

「うおおおっ! 逆転だぁっ!!」

 

昨年の優勝チームでもある強敵・川崎スティーラーズに前半こそリードを許したレイカーズだったが、

攻守の軸となる亜嵐の奮闘もあって猛反撃に転じ、遂に逆転。

試合終了間際の劇的な決勝トライが決まると、満員のスタジアムは熱狂の渦に包まれた。

 

「苦しい試合でしたが、皆さんの熱い応援が力になって逆転できました。

 この調子でどんどん勝って、今年は優勝を狙います!」

 

試合後、汗びっしょりになりながら笑顔でヒーローインタビューに答える亜嵐。

日本での暮らしが長く、日本を気に入って国籍まで取得した亜嵐は日本語が流暢で、

アランという元々のファーストネームに亜嵐という漢字を当てただけでなく、

日常会話やマスコミへの対応でも全く不自由なく日本語を使っている。

 

「次はアウェイの広島アローズ戦か……。

 これに勝てば、いよいよ首位浮上も見えてくるな。

 冗談抜きで、今年は優勝も行けるかも知れないぞ!」

 

激闘を制したレイカーズの選手たちが挨拶のため観客席に近づいてくると、

大洋は鞄から色紙とペンを取り出し、階段を駆け下りてスタンドの最前列へ向かった。

ラグビーではファンサービスの一環として、

試合を終えたばかりの選手と観客が間近で触れ合うというのが、

短い時間ながらも毎回お決まりのイベントになっているのだ。

 

「あ、あの、ウォーレン選手! サイン下さいっ!」

 

「OK! 応援ありがとう」

 

大洋が緊張しながら差し出した色紙に、快くサインを書いて返す亜嵐。

憧れのスター選手から念願のサインを貰えて、

大洋は思わずその場で叫び出したくなるほど感激したのであった。


「こいつは一生の宝物だ。部屋のどこに飾ろうかな~」

 

試合の興奮も冷めやらず、高揚した気分でレイクスタジアムを出て帰路につく大洋。

貰ったサインを大切そうに鞄に仕舞い、暗い夜道を一人で歩いていると、

向こうから誰かがよろよろとした足取りでこちらへ近づいて来るのが見えた。

 

「おい君、どうした? 大丈夫か?」

 

「ううっ……」

 

黄緑色のテニスウェアを着た自分と同じ高校生くらいの男子が、

苦しそうに体を引きずって歩いている。

何かあったのだろうか。大洋は咄嗟に駆け寄り、彼を助けようと声をかけた。

 

「こ……来ないで下さい……俺……は……」

 

「何言ってるんだよ。具合が悪いのか? 救急車を呼ぼうか?」

 

「く……来るな……ウォォォォッ!!」

 

「……!?」

 

テニスウェアを着た青年の体が突如として発光し、

彼は大洋の目の前でハサミムシ型の魔人・イアーウィグレギウスに変身して暴れ出した!

 

「レ、レギウスだぁっ!」

 

手についた大型の鋏を振り下ろし、道路脇のガードレールを両断するイアーウィグレギウス。

豪胆な性格の大洋もこれには慄き、サインを入れた鞄を胸に抱えながら腰を抜かしそうになる。

だがそこへ、一人の男が駆けつけて大洋を庇うように立ち塞がった。

 

「ブレイバーフォースです。早く逃げて下さい!」

 

「は、はいっ!」

 

現れたのは地球防衛軍ブレイバーフォースの斐川喜紀隊長だった。

ゾラン・ゼムノヴィッチ博士が造ったレギウス化を起こす血清を飲まされた人間については、

獅場楓花の証言から黒津耕司を介して日本政府やブレイバーフォースにも情報が上げられており、

斐川はその人物を探してパトロールしていたのだ。

 

「グォォ~ッ!!」

 

「理性を失っている。俺のような遺伝性のレギウスなら、

 変身してもそんな精神状態にはならないはずだが……」

 

野獣のように凶暴性を剥き出しにして襲ってくるイアーウィグレギウスに、

元の高校生の意思はもはや感じられない。

生まれつきレギウス因子を持つ者には見られない、

これまで認知されていなかった特殊な症状であった。

 

「変身ッ!!」

 

斐川は魔力を高めてファルコンレギウスに変身。

イアーウィグレギウスの突進を身軽なジャンプでかわすと、

武器のブレイバーライザーを銃に変形させて構えた。

 

「ブレイバーライザー・スタンガンモード!」

 

何の罪もない若者が強制的に血清を飲まされレギウス化させられたとの情報から、

イアーウィグレギウスを発見しても問答無用で抹殺するのではなく、

捕獲して身柄を確保し救出を図るという方針をブレイバーフォースと警視庁は共有している。

ビームを通常の破壊光線ではなく非殺傷性の電気ショック光線に切り替え、

ファルコンレギウスはイアーウィグレギウスを射撃した。

 

「グォォォ~!!」

 

「レギウスを気絶させるとなると、やはり簡単ではないか。うっ!」

 

電気ショックの痺れに耐えながら前進してきたイアーウィグレギウスに、

接近を許したファルコンレギウスは鋏で斬りつけられブレイバーライザーを叩き落とされてしまう。

やむなく格闘戦に持ち込みつつ、なおも諦めずに相手を殺さず制圧しようとするファルコンレギウス。

その時、不意に遠くから飛来したビーム弾が両者を撃って吹き飛ばした。

 

「うわぁっ! な、何だ!?」

 

二階建てのアパートの屋上からビームを撃ってきたのは、

大きな角が生えたカブトムシのような怪人――ビートルレギウスであった。

アパートの上から飛び降りてきたビートルレギウスは、

角を向けながら突撃し、イアーウィグレギウスに猛然と襲いかかる。

 

「何者だ!? やめろ! 殺すつもりか!」

 

殺害せずに捕獲という方針にはまるで構うことなく、

容赦ない猛攻をイアーウィグレギウスに加えるビートルレギウス。

イアーウィグレギウスも怒り狂って反撃し、昆虫型レギウス同士の死闘となる。

 

「うっ……ぐぁぁっ……!」

 

「血清の効力が切れてきたんだ。どうやらタイムリミットだな」

 

戦いのさ中、突然苦しみ出したイアーウィグレギウスは、

テニスウェアを着た高校生の姿に戻って地面に膝を突く。

数日前に飲まされた血清が体内で消化され、レギウス化を起こす因子が力を失ったのである。

戦闘力を喪失して倒れた高校生に無慈悲に止めを刺そうとするビートルレギウスだったが、

ファルコンレギウスが素早く飛び込んで彼の体を抱きかかえ、そのまま空高く飛翔して離脱した。

 

「逃がすものか!」

 

カブトムシ型のビートルレギウスにも飛行能力はある。

すかさず追尾しようと背中の羽を展開するビートルレギウス。

だが、それを後ろから若い女性の明るいハスキーボイスが呼び止めた。

 

「無理しないの。あんたもそろそろ活動限界でしょ?」

 

「デ・フリース隊長……」

 

隊長と呼ばれたその女性は、そんなお堅い肩書きなどはとても似合いそうもない、

眼鏡をかけた陽気で軽薄そうな、そしてどこかミステリアスな雰囲気の少女だった。

長い金色の髪をツインテールにして結び、丈の短い紺色のミニスカートを夜風に靡かせている。

肌は雪のように白く、一見して欧米人を思わせる外見である。

 

「ゼムノヴィッチ博士が造った試作品のレギウスとほぼ互角か~。

 もうちょっとやれるかと思ったんだけど、まだまだ改善が必要だね。

 ま、現時点では十分使い物になる実力だから別にいいけど。

 取り敢えずお疲れ~! テストの結果は私が報告しとくから、もう家に帰って休みなよ」

 

「しかし隊長……」

 

「明日は部活の試合なんでしょ? レギウスは普通の人間よりタフだって言っても、

 睡眠不足はやっぱり良くないよ。ほら、いいから早く上官の命令に従いなって」

 

「了解しました。では、これで帰投させていただきます」

 

ビートルレギウスは片手を挙げて彼女に敬礼すると、

そのまま飛び立って夜空の闇の中へ消えて行った。

ふざけたように崩れた姿勢で答礼をした彼女――ウィルヘルミナ・デ・フリースは、

ポケットから市販のスマートフォンに偽装した超高性能の小型コンピューターを取り出し、

相変わらずの軽く馴れ馴れしい口調で何者かに通信を繋ぐ。

 

「あっ、パパ~? 今テスト終わり~。

 うん、まあまあだったよ。スピードは前よりかなり上がったけど、

 パワーの方は20%未満の上昇率で、想定とはちょっと違ったみたいだね。

 何かエラーが起きてるのかも知れないから、後で確認が必要かな。

 研究室の博士たちにキツくお説教しといてよ。もっとちゃんとやれ!ってさ」

 

パパと呼んだ相手との通信を切ると、ウィルヘルミナはスマートフォン型のメカを操作し、

先ほどの戦闘で収集したデータを開いて楽しげに眺めながら歩き出す。

やがて彼女の姿は夜の安土の街の雑踏に紛れて見えなくなった。


「行け行けっ! チャンスよ! 速攻!」

 

「江星ファイト~!」

 

翌日。安土市内にあるグラウンドでは、

安土江星高校と草津教育大学付属高校のサッカー部の試合が行われていた。

 

「あ~! 惜しい!

 でもチャンスは何度も作れてるから、このまま行けば点は取れそうかな?」

 

「今年の我が校のサッカー部はなかなか強いチームよね。

 去年よりもディフェンスがしっかりしてるし、

 中盤にもいいパスを出せる選手が揃ってるわ。

 後はシュートを決めるストライカー次第ってところかしら」

 

ボーイフレンドの獅場俊一もベンチ入りしているこの試合を、

スタンドから懸命に応援している稲垣千秋のすぐ横で、

真剣にメモを取りながら試合を分析している女子生徒はクラスメイトの柿谷芽衣。

校内新聞の発行や校内放送の制作など各種メディアを扱う報道部の2年生で、

明るく軽快なトークが得意の美人レポーターとして人気の学園のアイドルの一人でもある。

 

「俊一の出番、まだかな……」

 

「獅場くんか……。レギュラーの座はまだ掴めてないけど、

 途中出場で試合の流れを変える切り札としては最近いい仕事をしてる2年生の有望株よね。

 別に千秋ちゃんの彼氏だから言うわけじゃないけど、

 私もそろそろ獅場くんを出したら面白くなると思うわ」

 

FWの俊一はこの日の先発メンバーから外れ、控え選手としてベンチで出番を待っている。

県内の古豪である草津教育大付属に1点を先制され、残り時間が少なくなってきたところで、

俊一の出場はまだかと千秋はそわそわしながら何度もベンチの方を見ていた。

 

「おおっ!? ほら見て! 南郷先生が獅場くんに声をかけてるわよ。千秋ちゃん」

 

「来たぁっ! いよいよ俊一の出番ね!」

 

監督で顧問の教師・南郷啓介が遂に選手交代に動き、

ベンチに座って戦況を見つめていた俊一にウォーミングアップを始めるよう指示した。

 

「中盤を一枚減らして2トップに変更だ。

 日浦と組んで二人でひたすら点を取りに行け」

 

「はいっ!」

 

「それから、疲れが見えてきた右サイドバックも交代するぞ。

 富樫、行けるな?」

 

「はい、監督!」

 

ジュマート富樫。

南郷が声をかけたこの1年生の選手は、東南アジアのベルシブ共和国から来た外国人である。

政情不安で内乱が続くベルシブから日本に亡命してきた難民で、

日系移民の血を引いているため外見は日本人の中に混じってもほとんど違和感がない。

両親が家庭内で話していた日本語も来日前からほぼ完璧に使いこなせており、

江星高校ではサッカー部に入部して俊一たちの後輩として頑張っていた。

 

「行くぞジュマート! 俺たちの力で流れを変えるんだ」

 

「はい。先輩に絶対いいパス出してみせます!」

 

残り時間が10分という大詰めのところで、俊一とジュマートが同時に投入されフィールドに立つ。

まだ1年生ながら果敢な攻撃参加が持ち味の快速サイドバックとして、

ジュマートは既に試合でも度々活躍している江星サッカー部の期待のホープなのだ。

 

「よし! ジュマート頼む!」

 

ボールを持った俊一が、右に空いたスペースに展開していたジュマートにスルーパスを出す。

得意のスピードに乗ったドリブルでジュマートは一気に攻め上がり、

俊一もその動きを横目で追いながら相手のゴール前へ猛然とダッシュした。

 

レギウスに覚醒して以来、常人離れしたパワーに悩んでいた俊一が、

甲賀忍軍頭領の稲垣岳玄にまず教わったのは体の力を抜くリラックス術である。

スポーツも含めた日常生活では、あまり強すぎる怪力は危険だし、

どんな時でも常に高い魔力を稼働させた状態でいるのは肉体にかかる負担も大きい。

精神の働きによって魔力をコントロールしその出力をセーブすることで、

普段の力を通常の人間並みにまで下げることができ、

サッカーのような体をぶつけ合う競技も安全に遠慮なく思い切りプレーできるようになるのである。

戦いの時になれば抑え込んでいた魔力を必要に応じて解放し、

変身前でも強いパワーを振るえるよう言わばギアチェンジを行なうこともいつでも可能だ。

 

「よし、来いっ!」

 

試合終了直前のラストチャンス。

ゴール前で待ち構える俊一に向けて、ジュマートが低い弾道のクロスボールを上げる。

飛んで来たボールを右足で力強く蹴る俊一だったが、

ゴールの隅を狙った渾身のダイレクトボレーシュートはわずかに照準が合わず、

ゴールポストに当たって跳ね返ってしまう。

 

「しまった!」

 

惜しくも外れたシュートに悔しがる俊一だったが、

次の瞬間、弾かれて芝生の上に転がったボールに別の選手が疾風のように走り込み、

狙いすました技ありのチップキックでゴールキーパーの頭上を越えて得点を決めた。

後半アディショナルタイム、残り時間わずかでの劇的な同点ゴールである。

 

「日浦先輩!」

 

「フン……」

 

日浦八宏。背番号11をつけた3年生のエースストライカーが、

さすがの貫禄で窮地のチームを救ったのだ。

この直後、試合終了の笛が吹かれ、草津教育大付属との対戦は1-1の引き分けに終わった。


「お疲れ様~! ドラマチックなラストだったわね」

 

「サンキュー、千秋」

 

試合後、着替えてロッカールームから出てきた俊一に、

冷たいミネラルウォーターの入ったペットボトルを手渡す千秋。

その横で芽衣は、今日のヒーローとなった八宏に突撃取材している。

 

「日浦先輩、見事な同点ゴールでした!

 今年の県大会に向けて、手応えはどうですか?」

 

「いい試合だったがミスが多かったのが反省点で、もっと向上が必要だな。

 後半から出た後輩たちがしっかり活躍してくれたので、

 チームの戦力が底上げされて強くなっているのは感じる」

 

八宏はやや気性が荒く、口調もぶっきら棒な面があるが、

気さくで面倒見は良く、チームを引っ張る3年生のエースとして皆に頼られている存在である。

同じポジションの俊一にとっては、不動のレギュラーに君臨する八宏は尊敬する先輩にして、

超えなければならない高い壁でもあった。

 

「いや~、それにしてもさすが日浦先輩!

 あのこぼれ球を冷静に決めるなんて凄いですよ」

 

「せっかく富樫がいいクロスをくれたのに、

 あれを決められないようじゃまだまだだな。獅場。

 ゴール前では何より落ち着きが大事だぜ」

 

今日は焦りがあったのか絶好の決定機を外してしまった俊一は、

あの土壇場で悠々とボールをゴールに蹴り込んで見せた八宏の冷静さと、

それをもたらす肝の据わりようはぜひ見習わなければと思った。

 

「この分なら、1年の富樫の方がレギュラー奪取は近そうだぜ。

 まだちょっと粗削りだが、いいドリブルしてたじゃねえか」

 

「ありがとうございます! 先輩!」

 

ジュマートは素直で純真、何事にも一生懸命に取り組む努力家の1年生として、

先輩たちからの評価は高く人柄としてもとても可愛がられている。

動乱のために母国を逃れてきた難民とあって私生活での苦労は多いはずだが、

それに負けずに頑張っている姿勢は俊一も好感を持って応援していた。

 

「で、日本での暮らしにはもう慣れたのか? 富樫。

 和食は美味いんだぞ。寿司はもう食ったか?」

 

八宏に訊かれたジュマートは、苦笑しながら首を横に振った。

 

「いや、そんな高級料理、なかなか手が出ないっすよ。

 着の身着のまま身一つでベルシブから逃げてきて、日本政府からもらえる支援金と、

 アルバイトのお金で何とか生活してる状態なんで」

 

「大変そうだな~。寿司は無理でも、蕎麦くらいだったら今度奢ってやるよ。

 実は千秋の家が美味しい蕎麦屋さんなんだ。なあ千秋」

 

「うん。今度ぜひ食べに来てよ。

 おじいちゃんに頼んで特別に割引してあげるからさ」

 

「蕎麦っすか。それは食べてみたいな~。じゃ、お願いします先輩!」

 

「よ~し、決まりだ!」

 

俊一と千秋の誘いをありがたく受けるジュマート。

その様子を、あのウィルヘルミナが物陰からこっそり観察していた。

 

「体力の消耗という課題はかなりクリアされたかな。

 短い時間だったけど、翌日にサッカーしても問題なく走り回れるくらい回復してる。

 後は実戦のテストをもうちょっと重ねておきたいところだけど、

 さてさて、噂のライオンレギウスとやらは一体どこにいるのかなぁ~?

 なかなか強いみたいな評判だし、ビートルレギウスの腕試しの相手としては最高なんだけどな」

 

スマートフォン型の小型コンピューターにデータを打ち込むと、

ウィルヘルミナはそれを閉じてポケットに仕舞い、音もなくその場を去った。